
NOT A HOTEL DESIGN COMPETITION 2026
2026年3月28日(土)、東京・国立新美術館の講堂で「NOT A HOTEL DESIGN COMPETITION 2026」の最終審査となる公開審査会を開催しました。 応募総数は初開催となった前回から大きく増え、世界112の国と地域から計1058作品が集まった本コンペティション。今回からは学生賞も新設し、書類審査で選ばれたManuel Woelfl氏らのチームが、受賞作品「IN-BETWEEN」について公開審査会の会場で発表を行いました。 審査員を務めたのは、世界で活躍する建築家ビャルケ・インゲルス氏、藤本壮介氏、インテリアデザイナーの片山正通氏、NOT A HOTEL代表の濱渦伸次の4名。約300人もの観覧者と審査員の前で、ファイナリスト10組がプレゼンテーションを行い、オーストラリアを拠点とする建築家Steven Chu氏の「Sound of Rain」が最優秀賞に選ばれました。 緊張感と熱気がひしめいた審査会の模様をレポートします。

応募期間:2025年9月22日~2026年1月11日 対象:U-40の建築家・クリエイター(2025年4月1日時点) 建築士の資格や国籍は不問。40歳未満の建築家・クリエイターを対象に、屋久島で実現・販売するNOT A HOTELのデザインを募集。 所属:個人または法人、グループで応募可(複数名で応募する場合はメンバー全員が40歳未満であること) 審査方式:2段階方式(1次審査:書類審査、2次審査:公開審査会) 賞金:最優秀賞1000万円(別途設計料)/優秀賞(4作品)50万円/佳作(5作品)15万円 審査員(敬称略):ビャルケ・インゲルス(Bjarke Ingels Group Founder & Creative Director)、藤本壮介(藤本壮介建築設計事務所 代表取締役)、片山正通(ワンダーウォール 代表)、濱渦伸次(NOT A HOTEL Co-CEO/Chief Visionary) 応募総数:2128組、4250名(112の国と地域から参加) 提出作品数:1058作品 〈学生賞〉 応募資格:U-25の学生(2025年4月1日時点) 審査方式:書類審査のみ(公開審査会で受賞作品をプレゼンテーション) 賞金:100万円
開会式では、前回、最優秀賞を受賞したMohamed Hassan Elgendy氏からのビデオメッセージが流れ、審査を控えるファイナリストらへの激励の言葉と共に審査会がスタートしました。
11:30 開会式 11:45 プレゼンテーション開始 (発表時間は各チーム5分ずつ+10分間の質疑応答) 15:45 公開ディスカッション 16:55 結果発表 17:20 閉会式
ファイナリスト10組の発表は、各5分間のプレゼンテーションと10分間の質疑応答で実施。限られた時間の中で、ワクワクするアイデアが次々と提案されていきます。
屋久島の険しい山々のシルエットに着想を得た「Echo of the Mountain」。優秀賞に推薦した濱渦は「屋久島の自然、周辺環境のことをよく読み解き、屋根の角度やディテールまで丁寧に考えられている」と評価しました。スクエア形状の材を地面に対して45度回転させ、反り返らせたようなフォルムの屋根からは、溝を伝って雨が流れ落ち、“水のカーテン”となって建築を包み込みます。また、複数にセパレートされた屋根は、その隙間から入り込む外光や風と共に、室内にいながら外部環境の体感を増幅する装置としても機能します。
最優秀賞に選ばれた「Sound of Rain」。大きな円形の屋根によって雨から身を守りながらも、リビングルームの上部には透明素材を用い、雨の滴りや水紋の変化を感じられるよう計画されています。
今回のコンペティションの舞台となったのは鹿児島県の屋久島。島の面積の約2割が世界遺産に登録されている地であり、鬱蒼とした原生林と美しい海とのコントラストが独自の景観を構成しています。年間降水量は8,000mm超と、国内の年平均降水量の5倍。そうした土地特有の気象条件や自然環境を発想の起点にした提案が数多く見られました。 また、コンペティションの対象敷地の近くでは、フランス建築界の巨匠ジャン・ヌーヴェル氏率いるAteliers Jean Nouvelによる「NOT A HOTEL YAKUSHIMA」の計画も進んでいます。
「Primitive Retreat」は、「洞窟」のイメージに着想を得た躯体、開放的でシンプルな内部空間、そして屋久島の大自然を借景とする構成によって、安心感や心地良さと外部とのつながりを両立させた建築。「プリミティブで美しい空間体験と、季節や天候に関係なく自分らしく過ごせるリトリートとしての安心感がある。20年、30年後には緑に覆われ、もっと自然に溶け込んでいく想像もふくらんだ」(藤本氏)と評価されました。
周辺の自然環境を取り込みながら、屋久島の文化や手仕事にも着目した「A CRAFTED SHELTER」。中央に塔を設け、そこを中心に木造の大きな屋根と内部空間が広がるよう計画。建築の下層には屋久島の大地から立ち上がるようなイメージで石を多用し、上層は木組みの構造とトップライトで構成することで森や空への開放感を感じさせます。
敷地の起伏や巨石、木々に沿うように、有機的に広がる平面計画が印象的な「Between Forests」。屋根によって各居室の連続性を生み出しながら、半屋外のコリドーや雨が降り注ぐテラスなどを合間に差し込むことで内外のつながりを演出。屋久島の自然に溶け込む滞在体験を提供します。「山を散歩しているような感覚で、リビングやダイニングでの生活、入浴、睡眠のための場を発見していく体験がある。それらを包み込む軽やかで優雅な、彫刻のような建築も美しい」(ビャルケ氏)
ファイナリストらの提案に対してビャルケ氏は、「建築は、私たちが望む人生を形にするための、芸術的かつ科学的な大切な要素と言えます。特にNOT A HOTELの建築においては、そこに滞在する1人の人間、つまり最小単位の豊かな時間を提供しなければいけません。この屋久島の環境の中で、建築というキャンバスに、そこで過ごす人の生活がどうあるべきかを力強く描き出している作品を最優秀賞に選びたい」と語ります。
「THE DRAGON'S BREEZE」は、屋久島の山と森、そこから海へとつながっていく環境からインスピレーションを得て、そのシークエンスの流れを「龍」に見立てた計画。軸となる中央部から複数の方向に枝分かれした場所に各居室が設けられ、それぞれ異なる景観や体験をもたらします。
周辺の自然にできる限り影響を及ぼさず、環境に溶け込むような「透明性」のある建築を模索した「Deep Transparency」。水や空気、光といった要素にフォーカスし、それらが作用し合って生み出す奥行きのある透明性を空間の中で表現。また、水や風などの自然の循環を建築の一部として取り込み、新たなエコシステムの創出も試みています。「自然や人、デザインの関係性について深く掘り下げていくなかで生まれた、とても詩的な空間。今回は実現しなくとも、いつか実際に体験してみたい」(片山氏)と評価され、優秀賞に選ばれました。
建築や人、自然にある「間」をコンセプトにした「Aida」。敷地内の巨石や土地の起伏を活かしながら建築を配置し、そこで生まれるギャップを体感するような空間が提案されました。屋根のスリットから差し込む光や、複雑に入り組むガラス張りの開口が内外の連続性を感じさせ、豊かな空間体験をつくり出します。
建築や屋久島を構成する要素を一つひとつ見つめ直し、ある種のアートのように再構成した「Life could be just」。重厚さと軽快さが対比するような大きな瓦屋根を持つファサード、雨が溜まり水盤となるルーフトップ、その合間を抜ける光や風。この場所でしか感じられない空間体験が積み重なっていくような提案です。
傾斜する敷地の地形を活かしながら、木々の合間を抜けるように凸凹としたボリュームが連なる「Living Stones」。屋久島の原風景にある花崗岩に着想を得て、建築の内外に石の表情を感じる仕上げを採用。室内に足を踏み入れ、奥へと進むたびに、さまざまな自然や景色と出会うよう計画されました。

ファイナリストによるプレゼンテーションの間で、学生賞を受賞したManuel Woelfl氏らの発表と表彰式も行われました。 「学生賞(U-25)」は、未来ある学生たちの自由な提案を掘り起こす試みとして、今回から新設。受賞した「IN-BETWEEN」は、屋久島の自然を取り込んだ魅力的な空間であると同時に、人が滞在する場としてのディテールにまでこだわった計画となっており、審査員からは、ファイナリストと並んでも遜色のない作品として、学生たちのさらなる成長と、今後の活躍に期待が寄せられました。
学生賞を受賞した「IN-BETWEEN」。屋久島の山、森、海、そして雨という要素を、より間近で感じられるような空間を提案。異なる景観それぞれに向かって広がる居室と、建築の中央に雨水を集めて滝のような風景を生み出す屋根の形状など、この場所らしい体験にフォーカスしながら、居住空間、宿泊施設としての機能性も細やかに計画された点が評価されました。
プレゼンテーション後には、公開ディスカッションを実施。各審査員がプレゼンテーションを聞いて気になった作品を2点ずつ挙げ、最優秀賞を選出するためのより踏み込んだ問いをファイナリストに投げかけていきます。
ディスカッションの中で度々話題となったのが、「建築の実現可能性」「どうしても譲れない設計者としてのこだわりは何か」の2点。 例えば、リビングルームに大きな天窓を設け雨の水を体感できるよう計画された「Sound of Rain」は、その素材やサイズ、建築の構造などについて、本当に案の通りに実現できるのかといった質問が重ねられました。また、シークエンスを重視した「Living Stones」に関しては、建築家が提示する体験が本当にここで過ごす人にとって魅力的なものなのかといった鋭い指摘が飛ぶ場面も。
一方で、芸術家の著作や詩からインスピレーションを得た「Deep Transparency」や「Life could be just」に対しては、そこに込めた建築家の思いを聞き、その建築をこの土地で形にすることの意味を見出そうとするコミュニケーションが図られました。
議論のテーマのひとつとなった実現可能性について濱渦は「実際に建てる以上コストは無視できない要素なのは確かです。しかし、このコンペにおいてそこは大きな問題ではありません。最も大切なのは、『この建築を欲しい』と思う人がいるかどうか」と、NOT A HOTELが目指す、そこにしかない物語を持つ建築づくりへの思いを語ります。
「NOT A HOTELの建築は、自然と人の生活に寄り添うような存在であると同時に、場所が持つポテンシャルを引き出すことが求められます。どの提案も素晴らしいからこそ、より深く、屋久島という土地、そして敷地の環境のことを考えた提案を選びたいと思います」と藤本氏。 片山氏は「インテリアデザイナーの視点で、皆さんの考えがどれだけ実現可能性を持ったものかをしっかりと見極め、滞在者に特別な体験をもたらす空間を選びたい」と話し、提案が実現に結びつくコンペティションならではの細かな質疑や検証がなされていきました。

白熱したディスカッション、審査員たちによる議論の末、最優秀賞はSteven Chu氏の「Sound of Rain」に決定。屋久島の雨に焦点を当て、この場所でしか得られない唯一無二の体験へと昇華させた明快かつ大胆な提案が審査員全員に評価されました。
この空間の主役となるのが、透明な天井を持つリビングルーム。作品名が表すように、雨を受け止め、水の下で佇むことができる、この場所だけの空間体験を生み出します。また、円形のリビングルームを中心として、放射状にベッドルームやバスルームなどの各室を配置。それぞれで、屋久島の森や海へのつながりを感じられます。屋根の水盤からしたたる雨の様子は、その眺望をより特別なものへと高めてくれるはずです。
この提案は、屋久島の雄大な自然の中に滞在することを非常に率直に捉えたもので、一種の儀式のような体験を生み出すものです。水に覆われた建築は、パビリオンや寺院のような神秘性を持ちながらも、家族が集まる場所としての魅力を持ち合わせています。きっと滞在者にとって素晴らしいものとなるでしょう。 ——ビャルケ・インゲルス氏 素晴らしい作品が出揃った中で、ユニークで他にはないものであるかを見極めながら選びました。一見、不可能にも思えるような水盤の下で過ごすことができる建築は、NOT A HOTELが目指している建築の在り方や空間体験を体現するものだと思います。これをどうやって実現するかはNOT A HOTELチームの腕の見せ所かもしれません。建築家の思いを実現するこのコンペティションの価値がまさに表れた最優秀賞ではないでしょうか。 ——藤本壮介氏 最初に各作品の資料を見た時、「これだ!」と実は直感していました。ただ、魅力を感じる一方で、本当に実現できるのかを疑問に思っていました。審査やディスカッションを通じて、審査員の皆さんからも様々なアイデアが飛び交い、NOT A HOTELならやってくれるだろうと今は確信しています。何より、妥協案を尋ねた時にコンセプトを決して曲げず、自分を貫いた姿勢がとても印象的でした。この建築で、どんな屋久島の雨を体験できるのか今から楽しみです。 ——片山正通氏 審査員の皆さんと最優秀賞を選ぶ段階で、「どの作品を選ぶか」という話を超えて、「このリビングルームの天井をどうすれば実現できるか」という議論になっていました。僕にとってドリームチームと言えるお三方が、実現するための方法を思案している様子を見て、これしかないと。それだけこの提案が魅力的で、皆が見てみたいと思っていると感じたんです。建築家の思いを実現できるように、この瞬間から、NOT A HOTELのチームも一緒になって取り組んでいきます。 ——濱渦伸次
たくさんの提案の中からファイナリストを選び、さらに最後の1作品を選ぶのは簡単なことではなかったと思います。その1つに選ばれて、とても光栄です。受賞をした今、様々な感情が込み上げてきています。プレゼンテーションを終えた後、ビャルケ氏が最初のコメントで「サーリネンを思い起こす」とおっしゃってくれました。それは何気ない言葉だったかもしれませんが、12年前に亡くなった私の恩師がかつてサーリネンに師事していたことを思い出し、胸が熱くなりました。先生はポストモダンの建築家になりましたが、継承されたものが一世代を飛び越えて現れることもあるのかもしれません 。 このコンペティションは、私がこれまで参加した中でも最高のものの一つだと感じています。結果はもちろん嬉しいですが、それ以上にプロセスそのものを楽しむことができました。NOT A HOTELや審査員の皆様には、心から感謝を伝えたいです。これから「Sound of Rain」の計画を続けられる機会を得られたことに、とても感動しています。
審査員総評や各ファイナリストの受賞コメントは、特設サイトで公開中です。

早速「Sound of Rain」のプロジェクトチームが立ち上がり、実現に向けて動き始めています。また、前回の最優秀賞である「NOT A HOTEL KITAKARUIZAWA NATURE WITHIN」は、この春にも軽井沢の地で着工し、来年には完成する予定です。 NOT A HOTEL DESIGN COMPETITIONから生まれる建築が、新たな体験や出会いを創出していくことにご期待ください。
TEXT
PHOTO
Kei Takayanagi
NewColor inc