Vol.15
大堀伸(GENERAL DESIGN)
「誰も見たこともないまったく新しい空間をつくろうとは思ってないんです」そう話すのは、NOT A HOTEL AOSHIMAのデザインを手がけたジェネラルデザインの大堀伸氏。AOSHIMAに新たに加わる「CHILL2.0」と「COAST」のデザイン監修も担当する彼の仕事からは、いつも自然体な心地よさが感じられる。
大堀氏のデザインに共通するのは、敷地が本来持つポテンシャルを大切にする姿勢。特にAOSHIMAでは、南国特有の風景や気候に調和する設計が随所に見られる。同拠点随一の人気ハウスとも言える「CHILL」は、大堀氏のアイデアから導き出されたものだ。 「第1期の計画当初は、すべて平屋の建築をつくる予定でした。しかしこの敷地は、北側に海を望むため、逆光にならず綺麗に水平線を見ることができます。この魅力をしっかりと活かしたいと考え、平屋を4室つないでその上にもう1室をつくるプランを提案したんです。緩やかな曲線を描く浜辺や青島神社も一望でき、他の部屋とはまた違ったすごく美しい眺望になるだろうなと考えました」 第2期で計画されている「CHILL2.0」はこのプランをアップデートした新ハウスで、既存よりもワンフロア高い場所に配置される。インフィニティプールの幅も約20mまで拡張され、そこには浮島のようなアウトドアリビングも。まるで水平線に溶け込むような感覚を味わえる。
新ハウス「COAST」は、海辺の穏やかさを象徴するようなシンプルでミニマルなデザインが特徴。既存ハウス「SURF」と「GARDEN」の魅力を融合したデザインで、プライベートプールとプライベートガーデンを併せ持ち、海まで10秒で出ることができる理想のビーチハウスだ。さらに、メゾネットタイプのプランとなり、これまで1室であったベッドルームは2室に。グループでの快適な滞在も可能になる。 「目の前に海が広がる立地は最高ですが、反対に、すぐ近くの海岸を歩く人々の視線をどう遮るかは第1期の計画時から課題でした。壁を立ててしまうと海への眺望を邪魔してしまうため、通行人の頭の高さ程度までフロアレベルを上げて、さらに植栽で目隠しをすることで、プライバシーを守りながら海を感じられる状況をつくっています」
こうしたプランに加え、白い外壁や質感を感じる木、グレーの石やタイル、そして豊かな植栽といったデザインコードも第2期に引き継がれている。 「これらの素材の色やテクスチャーと青い海がバランスよく融合した時、そこには素晴らしい場所ができるだろうと当時考えていました。開業から2年が経ち、白い外壁は海風を受けてどことなく表情を変え、外壁の木はシルバーグレーに褪色。緑も豊かに育ち、狙い通り建築がこの場に馴染んでいる風景を見ると、とても良かったなと改めて感じました」
「竣工した時が一番魅力的で、その後は朽ちていくだけというより、4、50年前からずっとあったかのように、さらにその先も古びずに永くそこにあり続ける建築をつくりたい」と大堀氏。デザインでは常に、その場所で人々がどう充実した時間を過ごせるかを重視しているという。 「美しいだけだったり、ある一人の設計者が考える価値観だけに基づいていたりする空間ではなく、場所の魅力をシンプルに伝えられるような建築が強固な魅力を持つと感じるんです。“豊かさ”は人それぞれですが、僕にとっての豊かな時間は、気持ちのいい風を感じるとか、のんびりと横になって過ごすとか、そのくらいのもの。こうした何気ない豊さに寄り添うことが、これからの新しいラグジュアリーのひとつの形なんじゃないかと考えています」
第2期では、パブリックエリアを拡充することが計画されており、スケートボードパークやバスケットボールコート、芝生が広がるパークエリア、マルシェやイベントの開催を想定したエントランスプラザが新たに加わる予定だ。
「NOT A HOTEL AOSHIMAが開業して、明らかに街の様子が変わりましたよね。元々サーファーには人気のエリアでしたが、この場所ができて周囲も活気づき、さまざまな人が訪れる場所になった。さらに第2期でパブリックエリアが拡張することで、NOT A HOTELに宿泊する人と、レストランやBBQに訪れる人たち、ビーチに遊びに来る人たちが適度に混じり合い、新しいカルチャーが生まれる場所になるといいですね」 NOT A HOTEL AOSHIMAには、そこに足を踏み入れると、なぜか心が安らぎ、何度でも訪れたくなるような不思議な魅力が漂っている。大堀氏の手がけた空間から、過ごす人をそっと包み込むような、そんな温かみが感じられる理由はここにあるのだろう。その空気感を引き継ぎながら、第2期となるAOSHIMA 2.0ではさらににぎわいを創出し、滞在体験をより魅力的にアップデートしていく。
大堀 伸
Shin Ohori
ジェネラルデザイン代表。商業施設や戸建住宅などの建築設計から、アパレルや飲食店のインテリアデザインまで、ジャンルを固定することなく手がけている。直線的でシャープなデザインと手の痕跡が残るクラフト感の融合が特徴的。主な仕事にreload、大磯プリンスホテルサーマルスパ S.WAVE、Saturdays NYC東京ショップ、ログロード代官山、Spring Valley Breweryなど。
reload
下北沢の街のカルチャーを継承し発信していくことを意図した商業施設。小田急線地下化による線路跡地に、2021年にオープンした。下北沢の街のスケールを引き継ぐ様々なサイズに分割されたテナントの白いボリュームが配置され、それらの間に生まれた中庭、路地裏、屋上テラスなども取り込んで、豊富な緑と共に地元の人や街を訪れる人々を巻き込んだ新しいコミュニティーが生まれている。 Photo : Daici Ano
Saturdays Surf Daikanyama
クラシカルでモダンなウェア、サーファー向けのウェアなどを展開するニューヨーク発のアパレルブランド。ニューヨークに続いて、2012年3月に日本1号店を代官山にオープン。ストリートカルチャー、サーフカルチャーを愛する人々に強く支持されている。ファッションアイテムのほか、サーフ関連グッズやサーフギアも取り扱っている。代官山のほか、大阪、神戸の店舗デザインも手がけている。 Photo : Daici Ano
LOG ROAD
2015年にオープンした代官山の商業施設。かつて東横線が走っていた全長220mの線路が地下化されたことにともない、その跡地に5棟の商業店舗や散策路を設計。各所に点在するテラスやベンチ、たくさんのグリーンによって、公園のような雰囲気をもつ商業空間が生まれた。また植物には時間の経過とともにシルバーグレーに色が変わるレッドシダーを用いることで、経年変化によってさらに魅力を増していくような空間を提案した。 Photo : Daici Ano
Text: NOT A HOTEL
Photo: Kanta Nakamura(NewColor inc.) KOZO TAKAYAMA