Vol.11
小山 薫堂(オレンジ・アンド・パートナーズ)
ユニークな視点で時代を創る文化人、小山薫堂氏がコンセプトを設定、監修を手がけた「NOT A HOTEL FUKUOKA」。福岡・薬院というビジネスにも日常生活にもふさわしい場所では、旅と日常を行き来するデュアルライフ、そして“人生の余白”を手に入れることが可能だ。
まもなく竣工する「NOT A HOTEL FUKUOKA」は、絶景のリゾート地にある別荘というこれまでの「NOT A HOTEL」シリーズとは異なる、初の都市型コンドミニアム。福岡空港から車で15分、天神から一駅という好立地にありながら、全室100㎡以上でテラス付きというゆとりの空間を全8タイプ揃えている。オレンジ・アンド・パートナーズを率いる小山薫堂氏が監修し、“人生の余白(=blank)を楽しむ”をコンセプトに、都会の街中で暮らすように過ごせる場所だ。
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小山氏といえば、『料理の鉄人』をはじめとした数々のテレビ番組や、映画『おくりびと』も手がけた放送作家、脚本家。ラジオのパーソナリティやエッセイの執筆などメディアでの活躍に加えて、商品やサービスの企画開発やブランディングなど、幅広いフィールドで斬新なアイディアを次々に形にしている人物だ。故郷である熊本県では地域プロジェクトアドバイザーを務め、人気キャラクター「くまモン」の生みの親でもある。さらにはお風呂愛好家として入浴文化を茶道や柔道のような道にする「湯道」を拓き、京都の老舗料亭「下鴨茶寮」の主人という顔ももつ。
「今回のプロジェクトにおける僕の立ち位置は、そうですね、なんて言ったらいいんだろう。プロデューサーともアドバイザーともちょっと違う。監修者、コンセプターですね。こういう場所にこういう土地があって、そこにどういうコンセプトで、どんなものを建てたら魅力的な空間、 建物になるかっていうことを考えることが出発点でした。もともとこの場所にはちょっと大きなお屋敷があり、そこが売りに出ているということから、何か企みたいと思い始まったんです。何を建てるといいのだろうと考えていた時に、ご縁もあってNOT A HOTELという選択肢が生まれました」
天神ビッグバンや博多コネクティッドなどの大規模な再開発も進み、人口も増え続けている福岡は、今後ますますの発展が期待される注目エリアでもある。小山氏に福岡という街について印象を尋ねた。
「福岡は、もう本当にいろいろ魅力的な要素があるんですけど、まずはやっぱり街に勢いがある。そこに暮らしている人であるとか、僕の場合は、うまい店が多いってのもそのひとつなんですけど、とても刺激的です。それに九州内を移動するにも、まず福岡ですよね。九州にはいい温泉もたくさんあるし、阿蘇なんかも行きやすいですし、福岡空港から宮崎空港へは40分。ちょっと足を延ばせば1時間以内で大体九州の隅々まで行けるんじゃないかと思います。これからの時代はアジアと繋がっていくための玄関口でもありますから」
熊本出身の小山氏としては、常に福岡に対してライバル心をもっているといいつつも、福岡の利便性を認めている。
「都会でありながら比較的近い距離に海や山があり、人々が心地よく暮らすために必要な要素が、どれもちょうどいいバランスで手の届く範囲に存在している。物価も東京に比べると安いけれど、それでいて大都市圏並みに洗練されているんですよね。熊本出身の僕としては『九州のヘソは熊本だ』って言いたいんですけど、やっぱり福岡の方がいろんな意味で豊かで、利便性に優れているのは認めざるを得ません」
「起工式には地元のいろんな方が集まってくださって、ただ単純に建物ができるというだけではなく、薬院のこの場所から新しい文化を創っていく、そんな街のアイコンができるんだという予感がしました。ここから新たなムーブメントが生まれていく気がしています」
今回の物件がある薬院エリアは、華やかな天神とは違ってより暮らしに近い落ち着いた場所。薬院について、小山氏はこう続ける。
「薬院という場所は、僕の勝手な印象ですけど、東京で言う青山とか銀座とかの、いわゆるど真ん中ではない、例えば東麻布みたいな場所なんじゃないかな。住まいや暮らしがきちんとありながらも、そこにちょっと尖ったお店がある。NOT A HOTEL FUKUOKAは、旅先ではなくて、暮らす場所なんですよね。ここを所有するということは、 お客さんとして福岡に行くというよりは、福岡の人になって短期間そこに暮らすという、 旅ではなく、暮らしの感覚に近くなるんじゃないかなと思います」
建築は福岡を拠点とするaxonometricの佐々木慧とNKS2 architectsが建築設計を、インテリアデザインはA.N.D.小坂竜氏が担当する。なかでも小坂竜氏と小山氏は長い付き合いだ。
「今までお願いしている建築やインテリアは色々あるのですが、まず間違いないと言いますか。アーバンでありながらも温もりがあって、人の優しさみたいなものが感じられる世界観がすごく好きなんです。決して時間に消費されるような感じではなく、居心地のいい空間。ホテルであれば滞在時間が短いので、すごく尖った感じや印象に残るものがあったほうがいいんですけど、そういうかっこよさに加えて、何日いても全然飽きない心地よさとのバランスが絶妙なんです」
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「『blank』というコンセプトを創ったのは、自分自身の人生の楽しみ方にも似ていると思うんですけど、 やっぱり必要なものだけとか好きなものだけを追求していくよりも、そこにどこか少し遊びをもたせたいと思ったからです。車で言うならハンドルの遊びみたいなものですね。自分の人生に余白を作ることによって、新しい趣味が生まれたり、新しい出会いが生まれたり、そこから何かワクワクするものが染み込んでくるような、 そういうイメージでまずコンセプトを決めました。福岡のこういう場所に、自分の隠れ家、自分の余白を作ることによって、 きっと人生に何か新しい風が吹くんじゃないかなという、そんな直感ですけどね」
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「ここに滞在するときには、ホテルに泊まるのとは違って暮らすような気分で使ってほしいと思います。部屋に籠ってゆっくりするのもいいですし、ガレージにあるシェアバイクで街に出かけるもよし。あるいは昼間はシェアカーでいろいろなところを巡りながら食材を集めて、夕方に帰ってきたら、自分のペースで料理をしつつ好きなワインでも開けたりとか。1階には特にフロントがあるわけでもなく、オーナーや宿泊者専用のビストロ兼ワインバー。目の前の公園は春には桜が満開になるし、本当に居心地がいいと思います。そして欲を言えば、福岡に1人でも多くの友達を作り、その友達を招く。旅人だったら自分のホテルに人を招くなんてありえないわけで、自分が出かけていくしかないんですけど、NOT A HOTELだったら地元の友達を招くことができるんですよね。想像するとちょっとワクワクします」
食通としても知られる小山氏。福岡にもお気に入りの店がたくさんあって、来る度に何軒もはしごをしながら楽しんでいるという。
「この間はナチュールの立ち飲みワインバーへ行って、それから比較的最近できた、 京都からやってきたシェフが開いたイタリアンのお店でパスタを食べ、親子代々やっている老舗のおでん屋さんでおでんをつまみ、 締めにラーメンを食べて帰りました。僕だったらはしごをして、 そこで仲良くなった人を連れてきて、ここで家飲みをしたい。話しているうちに、不思議と欲しくなってきますね(笑)」
小山 薫堂
Kundo Koyama
放送作家、脚本家。1964年、熊本県生まれ。大学在学中に放送作家として活動を始め、『カノッサの屈辱』『料理の鉄人』『トリセツ』などの番組を企画・構成。脚本を手がけた映画『おくりびと』では、アカデミー賞外国語映画賞を受賞。熊本県のPRキャラクター、くまモンの生みの親でもある。
うしのみや東京
フェニックス・シーガイア・リゾートに店舗を構える牛肉割烹店「うしのみや」が東京・東麻布に進出。⽇本最⾼峰と云われる宮崎の⽜、その中でも厳選した「なかにしプレミアスペシャル和牛」のあらゆる部位を活⽤し、コースを通じて多彩な調理⽅法で「肉旅」を提供する。コンセプトから空間デザイン、メニュー監修まで総合プロデュース。
RED U-35
35歳以下の料理人の中から、新時代の若き才能を発掘する日本最大級の料理人コンペティション。創設から10年、毎年500名以上のエントリーから選ばれたグランプリ「RED EGG」受賞者は、料理人という領域を越えて新たなフードクリエイターとして国内外で活躍。
MEMU EARTH HOTEL
「地球に泊まり、風土から学ぶ」をコンセプトに、芽武という場所の固有性を活かした、人と自然と地域をつなぎ、共生を目指すサスティナブルホテル。サラブレッドの育成牧場跡地に作られた建築の実験施設を宿泊施設として蘇らせ、ホテル滞在ともアウトドアキャンプとも異なる地域滞在の形を実現。(*現在は閉業)
Text: Sanae Sato
Photo: Tetsuo Kashiwada(NewColor inc.) Yuka Ito(NewColor inc.) Kanta Nakamura(NewColor inc.)