Vol.04
コペンハーゲンに見る、 BIGの目指す世界
BIG's Projects in Copenhagen
ビャルケが生まれ育った場所であり、今も彼の拠点のひとつであるコペンハーゲン。BIGの起源であるこの街には、初期の仕事をはじめ数多くのプロジェクトが個性豊かに点在している。ランドマークであり、市民の憩いの場となっているBIGの建築からは、ビャルケが提唱する「ヘドニスティックサステナビリティ(享楽的持続可能性)」ーー何かを我慢するのではなく、楽しみながら環境に配慮するサステナビリティのあり方をリアルに感じられるはず。
CONTENTS
学校帰りに子供たちが海に飛び込む、市民の憩いの場
もともと工業地帯であったコペンハーゲンの港湾地区。90年代後半、政府主導で工場の移転など大規模な環境改善が行われたことによって水質が大幅によくなり、人々が泳げるまでになった。2002年にオープンした海辺のプール「アイランズ ブリッゲ」は、BIGが地元コペンハーゲンで手がけた初期のプロジェクトで、市内中心部から橋を渡ってすぐ。学校帰りに飛び込み台からダイブする子供たちや、芝生で日光浴をしながらのんびりくつろぐ人たちは、コペンハーゲンの夏を象徴する風景だ。ビーチへ行かずとも、日常の動線のなかで水に親しめるということも、人々の豊かな暮らしに貢献している。
Havnebadet Islands Brygge
Islands Brygge 14, 2300 København Sスキーが楽しめる世界初のゴミ焼却所
「コペンヒル」は、2019年に完成したゴミ焼却所兼発電所。山がなく平坦なコペンハーゲンではスキーができないため、その屋根の部分をスキー場にするというBIGの奇抜なアイデアが実現した。頂上の市内で最も高い展望台からはコペンハーゲン市内が一望でき、グラススキーのスロープのほかにハイキングコース、クライミングウォール、そしてカフェを備えている。ゴミからクリーンエネルギーを作る最新鋭の施設では、年間3万世帯分の電力と7万2000世帯分の暖房用温水を供給。今では地元の人のみならず、世界中から観光客が訪れる名所の一つに。
CopenHill
Vindmøllevej 6, 2300 København進化を続けるNomaを支える、食のサンクチュアリ
ニューノルディックキュジーヌを牽引し、世界中から人々が訪れるレストラン「Noma」。“フリータウン”として知られる自治区クリスチャニアの外れ、静かな水辺に囲まれた場所にある旧軍事施設を「Noma 2.0」へとリノベーションしたのもBIGだ。キッチンを中心とした11棟の建物それぞれに、レストランとして必要な各機能を分散。温室ではパーマカルチャーに則り食材を育てている。2024年いっぱいでレストランとしての通常営業は終わり、「Noma 3.0」としてリサーチを軸にラボに業態変更を予定しているが、進化を続ける彼らのハブであり続けることには変わりない。
Noma 2.0
Refshalevej 96, 1432 København K実験的な水上住宅は、住宅難へのソリューション
再開発により活気あふれるレフシャレオエン地区の水辺に浮かぶ「アーバン リガー」は、住宅不足に対応するための学生寮。水に浮かぶベースの上にコンテナを積み重ね、合計12のワンルームが中庭を囲む。カヤックの船着場、海水浴場、ランドリーなどの共有スペースで構成される。バーベキューができる中庭やルーフトップテラスを設けることで、コミュニティの形成も促進。スペースを最大化するためにNASA開発の極薄の断熱材を採用し、スペースを無駄にすることなくコンテナの内側を断熱、輸送用コンテナらしい色鮮やかな塗装の外観を保つなど、素材や工法、エネルギー効率にさまざまな工夫を凝らしている。
Urban Rigger
Refshalevej 163A, 1432 København Kフェリーを改装したボートハウスで、水上生活を自ら実践
ちなみにビャルケが住んでいるのは、ロイヤルファミリーが暮らすアマリエンボー宮殿の対岸、オペラハウスにもほど近い港に停泊するボート。フェリーとして使われていた船を彼が手に入れたのは、「アーバン リガー」が完成したのと同じ2016年だという。住み始めた当時は電気も水道もない状態で、かなりのサバイバル生活だったようだ。水辺とともにあるコペンハーゲンで、自ら水上生活を実践しているビャルケ。韓国・釜山では持続可能な水上都市「オーシャニックス シティ」計画も進行中で、気候変動による海面上昇、人口過密による土地不足などの問題への解決策を探るとともに、水辺で暮らすことの豊かさも誰よりも知っているに違いない。 サステナビリティと上質な生活体験がシームレスに統合された「ヘドニスティックサステナビリティ」を、世界中で次々と具現化していくBIGとビャルケ。地元コペンハーゲンでもその試みの数々と人々がそこに集まる様子を見ていると、彼が目指す世界が見えてくる。
STAFF
EDIT・TEXT
PHOTO
Sanae Sato
Maya Matsuura