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vol.01
心象風景を 現代に置き換える
谷尻誠氏・吉田愛氏インタビュー
谷尻誠・吉田愛率いるSUPPOSE DESIGN OFFICEが取り組む最新プロジェクト『NOT A HOTEL MINAKAMI TOJI』。建設予定地を視察に訪れた二人の言葉から浮かび上がる、建築のコンセプトを探る。
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群馬県利根郡みなかみ町。360°、見渡す限りの絶景を望む山頂で進行するプロジェクト『NOT A HOTEL MINAKAMI』。山頂に開かれた土地に『TOJI』という名を冠した5棟のヴィラが建設され、湯煙が立ち昇る温泉集落のような光景が作り出される——。思わず目を引く意匠でありながら、どこか懐かしさを覚える風景ではないだろうか。
CONTENTS
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「五感が研ぎ澄まされるような場所」—吉田愛
この日、谷尻誠と造園家の齊藤太一と共に建設予定地を訪れた吉田愛は、土地に対しての印象を教えてくれた。「雪の上を歩いているだけでも、足の裏にいつも無い感覚がありますよね。そして冷たさ。訪れるたびに、五感が研ぎ澄まされるような場所だと感じていて」。 冬のシーズン、カナダ・ウィスラーや北海道・ニセコなどにも匹敵するパウダースノーを求めて、国内だけでなく海外からも観光客が訪れるみなかみエリア。降り積もった雪にさまざまな音がかき消されて、静謐な時間がゆっくりと流れていく。吉田が語るように、東京といった大都市で過ごす時には意識しなかった感覚が蘇ってくる、そんな体験を味わえるかもしれない。
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雪化粧が施されたNOT A HOTEL MINAKAMIの建設予定地。
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東京から1時間ほどでパウダースノーの雪景色を楽しむことができる。
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山頂に計5棟のヴィラが建設され、温泉集落のような風景が広がる。
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「古いは、新しい」—谷尻誠
「古いは、ともすれば新しいと思うんです」。谷尻誠はそう語る。8月7日の一般販売開始にあたって公開された「TOJI」のCGパースを見ると、合掌造りを彷彿とさせるユニークな外観が目に入ってくる。谷尻はそのフォルムをデザインするにあたって、あるテーマを掲げていた。「何か新しいものを作りたいと思っていますが、それは誰もが見たことのないものを目指しているわけではないんです。人々の心の中にある心象風景を、どう現代に置き換えるか。それが僕らの大きなテーマになっているんです」。 吉田は『TOJI』での体験をこんな言葉で表現する。「それぞれの建物から湯けむりのように白煙が立ち昇る風景は、現代と過去が入り混じるようなもの。みんながまだ体験したことのない空間として作り上げたいと考えています」。
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『TOJI』の屋根には銅板一文字葺きを採用。時の経過とともに風合いも変化していく。
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リビングを取り囲むようにインフィニティプールや温泉が配される「水の建築」。
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暖炉を中心に構成されるリビングは6mの天井高で、開放感に溢れたつくり。
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山頂のヴィラでは、源泉掛け流しの天然温泉を楽しむことができる。
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みなかみの土地と繋がっていく建築
「雪がしっかりと降るエリアなので、屋根の形状ひとつとっても集落のように作ることのほうが、気候に対して反するものではなく自然に近寄っていけるような姿になると考えている」と谷尻が話すように、『TOJI』のデザインは土地との関係性から導き出されたものでもある。雪深い地域の人々が長い年月をかけて生み出した伝統的なフォルム。外観だけをただオマージュするのではなく、リスペクトと根拠を持って採用した。 ヴィラの他にオーナー専用のレストランも併設される。単にラグジュアリーなレストランではなく、みなかみの土地を訪れた喜びを味わえる場所。吉田の言葉に耳を傾けると、その体験はただ「食べる」というよりは、「体験」という言葉で表現するほうがしっくりくると思わされる。「集落の一つとしてレストラン棟も設計しています。薪火料理を食べることができるレストラン。冷えた体を温めながら、パチパチと燃える火とその香ばしい香りを楽しめるといいなと思っているんです」。 みなかみという土地が持つ特色と、SUPPOSE DESIGN OFFICEの二人の哲学とが掛け合わさって生まれた『TOJI』の設計プラン。「色々な体験ができる土地なので、建物がこの土地の体験とどう繋がっていくのかを考えてプランニングをしてきました」。谷尻がそう語るように、土地と深く結びついた滞在を楽しめるはずだ。
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『TOJI』の模型。竣工は2025年夏を予定している。
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ランドスケープデザインを手がける造園家・齊藤太一と共に。
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建築とランドスケープ。その二つがかけ合わさって『TOJI』の体験が生まれる。
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NOT A HOTEL MINAKAMI購入申込み
TOJI
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STAFF
EDIT・TEXT
PHOTO
INTERVIEW
Tomoki Nakamuta
Hisanori Kato, Shinya Kobayashi(rightup-inc)
Kazuaki Matsui