
“旅する料理人”という生き方
NOT A HOTEL プロジェクトマネージャー藤井 智哉

NOT A HOTEL プロジェクトマネージャー
藤井 智哉
2004年に渡伊。本場イタリア、スペインバスクにて薪火料理を学ぶ。薪火料理「Erretegia 」で総料理長就任。2022年NOT A HOTEL MANAGEMENTに参画。料理人に加え、食体験におけるプロジェクトマネージャーを務める。
NOT A HOTELの体験において欠かすことができないのが、「食」です。プロジェクトマネージャー兼シェフの藤井智哉は、料理の提供にとどまらず、各プレイスのコンセプト策定段階からプロジェクトに参画し、食の視点からディレクションに深く携わるプロフェッショナルです。
シェフとしてキャリアを重ねてきた藤井は、2004年にイタリアへ渡り、イタリアやスペイン・バスクで薪火料理を習得しました。その後、薪火料理「Erretegia」で総料理長を務め、2022年にNOT A HOTEL MANAGEMENTへ参画します。
そんな藤井が目指す料理人像は「旅する料理人」。全国の拠点を跨ぎながらNOT A HOTELで働くことの醍醐味から、密かに描いている「NOT A CHEF」構想まで——その想いを伺いました。
“旅する料理人”へ
━━━NOT A HOTELにはどんな経緯で参画することになったんですか?
元々は広尾にある三ツ星の中華料理店「茶禅華(さぜんか)」に研修に行かせてもらったとき、林さん(NOT A HOTEL MANAGEMENT 代表取締役CEO)に出会いました。そこで、「こんなところができるけど、どう?」とNOT A HOTELについて教えていただいたんです。
当時はまだ、NASUとAOSHIMAの2拠点をオープンする段階だったんですが、今後は全国に展開していくという構想を聞き、それが参画する一番大きな理由になりました。 一つの拠点に腰を据えて、そこでとことん突き詰めていくというやり方ももちろん魅力的ですが、僕の経験上、一つの場所で得られるものは、だいたい3年くらいでひと区切りつくんです。
そこから先、長い目で見たときに、これまでの経験を活かしてもっと広い視点で料理を表現したい気持ちが強くなってきたんです。 それに、NOT A HOTELのスタイルだと、お客さまが旅するように各地を巡ってくれる。そのなかで、自分も料理人として各地を旅するように、土地ごとの素材や文化に触れながら表現していけるのが魅力的だと思いました。
━━━NOT A HOTELというサービスらしい働き方とも言えますね。
それぞれの料理長がその土地に合ったスタイルで、自分たちの料理を自由に表現していく。そして、その全員が仲間としてつながっている。これは料理人にとって本当に貴重な財産ですし、刺激にもなります。レシピが増えるというか、技術やアイデアの幅もどんどん広がるし、実際に自分の足で現地に行って、生産者と話したり、空気や温度、熱量を感じたりしながら、その場所で料理を表現できる。
それがまた春夏秋冬で変化していくとなると、本当に無限の楽しみ方があるんですよね。まさに、自分自身が旅をしながら料理をしているような感覚。それがすごく面白くて、ワクワクする環境だなと感じました。

清掃や接客の経験が料理人の血肉になる
━━━料理の話から少しそれるのですが、NOT A HOTELのシェフは、建物外構の点検や清掃も含めて、幅広い業務に関わることになりますよね。
もしかしたら、自分の原体験は「昼はお店で働き、夜は家事をこなしていた母の姿」かもしれません。いろんなことを同時にこなすのが当たり前の環境で育ったので、仕事でも自然と「なんでもやる」という感覚が根付いていました。
ホテルのレストランで働いていた頃は、「清掃は清掃」「料理人は料理人」と役割が分かれていて、それが普通だと思っていました。でも、役割を柔軟に重ねていくことで、5人でやっていたことが3人で回るようになるかもしれない。そんなふうに生産性を上げられる可能性があるんじゃないかと。
カウンターで料理をしているときに、お客さまから「部屋の掃除が行き届いてない」という声が届くこともありました。そのときに「自分がもっと関われたら」とか「もっと効率的にできるんじゃないか」と思っていたので、清掃に抵抗はまったくなかったですね。むしろ、料理と同じくらい大切な仕事だと思っています。
━━━料理にもフィードバックされると?
開業当初のNASUでは、支配人としての役割も担っていたので、お客さまが到着したらすぐにお部屋を案内していました。そうやって最初にお顔を合わせることで、その後の料理づくりにも自然とつながるんですよね。
たとえば「お子さんは何歳くらいだったな」「元気な男の子だったな」というイメージがあると、その人たちのために料理を用意する準備も変わってきます。料理も、ただレシピをなぞるのではなく、誰のために、どんな想いで調理をするかが大事だと思っていて。料理はお客さまの顔を見てつくらないと本当に美味しくならないと思うんです。

NOT A CHEFとして、日本の価値を上げたい
━━━最後に、これからNOT A HOTELというフィールドで、どんなことに取り組んでいきたいか教えてください。
僕のなかに「NOT A CHEF」という勝手な構想があって。「あのシェフがいるから、あの場所に行きたい」とお客さまに思ってもらえるような存在になりたい、という気持ちがあります。 まずは「旅する料理人」として、もっと各地を深掘りしていきたいというのが今のチャレンジですね。
━━━これからが、ますます楽しみですね。
全国には、まだ注目されていない生産者や素晴らしい食材がたくさんある。でも、それが日の目を見ないまま埋もれてしまっているのも事実です。そこにNOT A HOTELが入り込むことで、僕らが料理を通してその魅力を引き出し、お客さまに届ける。そしてその土地の価値を高めていく。
NOT A HOTELがフィルターとなり、地域の魅力を伝えていけるのは、本当に面白い仕組みだと思います。今後はSETOUCHI、TOKYOと、新たな拠点が次々とオープンしていきますが、ワクワクしかありません。

