Vol.03
世界へ、 そして月にまで広がる BIG建築
BIG Around the World
世界各地での建築や都市計画のみならず宇宙でもプロジェクトを抱え、建築デザインの枠を超えて活躍するBIG。「デザインとイノベーションでより良い世界の創造を目指す」と謳う彼らの作品は、サステナビリティにおいても群を抜いている。「エンジンなしのエンジニアリング」とビャルケが言う、空調や冷暖房の設備に頼ることを前提とせず、熱効率を考慮した見事なソリューションや、サイトスペシフィックな建築の数々。
CONTENTS
レゴの世界を体現する、遊び心あふれるデザイン
レゴハウスはファンの目的地であり、「子どものための首都」を目指すデンマーク南部の街、ビルンのシンボル。21個のブロックを積み重ね、レゴブロックをそのまま拡大したような遊び心あふれるデザインだ。プレイゾーンやファンによる名作ギャラリーなど、子どもも大人も楽しめる体験型ミュージアムであると同時に、レゴ広場は地域住民に開かれたスペースでもある。各展示エリアは、赤は創造、青は認識、緑は社会、黄色は感情というテーマを定めたカラースキームによってゾーニングされ、来館者をナビゲート。遊びと創造性を通して学ぶというレゴ・グループの哲学が、建築デザインにも表れている。
LEGO brand house
2017, Billund/Denmark Photo: Rasmus Hjortshøj, Iwan Baan水辺に浮かぶ、アムステルダムの新ランドマーク
アムステルダムの新開発エリア、エイブルグの人工島の上に建設された複合開発施設。BIGと地元オランダのバーコード・アーキテクツによる設計で、ダブルカンチレバーの構造は、まるで水上に浮かんでいるかのような印象を与える。442戸の住宅に加えて、公共の屋上庭園と遊歩道、セーリングスクールやレストラン、ボートが停泊できる桟橋もあり、住人と地域コミュニティを繋ぐ役割も果たす。 優れた断熱性と三重ガラスの窓、熱回収システム、電力は隣接する島の大規模なソーラーパネルシステムから供給される仕組みで、エネルギー効率の高い設計。アムステルダムの新たなランドマークとして、人々に親しまれている。
Sluishuis
2022 Amsterdam/Netherlands Photo: © Ossip van Duivenbodeマンハッタンの集合住宅は、BIGのNYデビュー作
マンハッタンの摩天楼の中でも一際目を引く、ハドソン川沿いに建つピラミッド型の集合住宅はBIGがニューヨークで初めて手がけたプロジェクト。ビャルケが不動産王のダグラス・ダーストと出会ったことから生まれた企画で、ニューヨーク進出のきっかけとなった。 コートヤードとスカイスクレーパーを組み合わせた造語、「コートスクレーパー」とも呼ばれるこの建物は、セントラルパークを模した2000平米を超えるコートヤードを建物を切り取るように設けることにより、各レジデンスに対する日当たりや眺望を確保している。窓には日射熱取得率を最小限に抑える特殊なガラス素材を用いることで、断熱性も考慮。さまざまな部屋タイプをもつ709戸のアパートメントの多くはプライベートバルコニーを備え、ハドソン川に沈む夕日を眺められる。 ライブラリーや映画試写室、ゲームルームなどのエンターテイメントに加え、ジムやプール、バスケットボールコートなどもあり、多忙なニューヨーカーのウェルネスをサポートするアメニティも充実。
Via 57 West
2016 New York/USA Photo: Iwan Baanグーグル本社は、次世代水準のサステナビリティ建築
2022年シリコンバレーにオープンしたグーグルの新社屋。2棟のオフィスビルと1,000人収容のイベントセンターを含む3棟から構成されるキャンパスは、BIGとトーマス・ヘザウィック率いるヘザウィック・スタジオとの共同設計によるもの。 最先端のワークプレイスのコアとなるのは、「イノベーション」「ネイチャー」「コミュニティ」という3つのテーマ。森林や沼地を含む自然豊かな敷地にあり、地上にカフェやミーティングスペース、その上の2階にワークスペースという構造で、随所に革新的なエンジニアリングが組み込まれている。地熱発電、雨水の利用や排水を再利用するウォーターシステムに加えて、特徴的なのは屋根に配された5万枚のソーラーパネル。“竜の鱗のソーラーキャノピー”と呼ばれるこの太陽光発電は、「NOT A HOTEL SETOUCHI」でも使われる予定だ。2030年までにネットゼロ・エミッションの達成を掲げるグーグルのコミットメントを象徴する、持続可能な建築の新たな基準を打ち立てた。
Google Bay View
2022 Moutain View/USA Photo: Iwan Baan垂直に空へと伸びる、シンガポールの空中庭園
キャピタスプリングは、シンガポールの金融街の中心に位置する51階建て、高さ280メートルの超高層複合ビル。商業施設、レジデンス、オフィスに加えて公共空間としての機能ももつこのビルは、2021年に完成した。 自然の要素を建築に取り入れたバイオフィリック・アーキテクチャーをコンセプトとした建物の緑地面積は、敷地のなんと140%に相当。合計で8万本以上の植物が植えられている。特に4層分の吹き抜けをもつ「グリーンオアシス」は、螺旋状の歩道と熱帯植物や木々で埋め尽くされた多目的スペースだ。また、屋上のスカイガーデンには150種類のハーブや野菜が育ち、敷地内のレストランやカフェの食材として使われる。 空中庭園を内包するオーガニックなラインと、オフィスやレジデンスのジオメトリックなラインを交互に組み込み空へと伸びるファサードが、シンガポールの都市部に新たな景観を生み出している。
Capitaspring
2022 Singapore Photo: Finbarr Fallonファサードからエネルギー効率を追求
国有企業である深圳エネルギー会社の新本社。南北に建つ2つのタワーは34mの高さで結ばれ、メインロビー、カンファレンスセンター、カフェテリア、展示スペースが中央部分に設けられている。波打つようなファサードは、近くで見るとプリーツ状の構造になっていて、太陽の向きに合わせて一部を折りたたんだり、開いたりする設計。自然光と眺望のために北向きの開口部を最大化する一方で、日当たりの良い側面の露出は最小限に。このファサードシステムが建物全体のエネルギー消費の削減に繋がっているほか、内部空間を変化に富んだものにしている。
Shenzhen Energy Mansion
2018 Shenzhen/China Photo: Chao Zhang3Dプリンターで作る、月面の居住空間
プロジェクト・オリンパスは、NASAとBIG、3Dプリントによる住宅を手がけるICON、航空宇宙産業と連携して次世代の居住空間設計をサポートするSEArch +の共同事業で、月面に史上初の3Dプリントによるインフラを計画中だ。月に3Dプリンターを送り、月面の材料を活用して居住施設を建設。宇宙放射線、微小隕石の衝突、極端な温度変化など、月の過酷な環境条件に耐えうる設計に加え、大気圧を効果的に封じ込めるために、さまざまな建築形態を模索しているという。 デンマーク語でデザインは「Formgiving」。文字通り、まだ形になっていないものに形を与えることを意味する。地球を飛び出し、まったく新しい環境である宇宙空間での暮らしに与えられる形は、地球での持続可能な開発にも寄与することだろう。
NASA Olympus
South pole of the Moon Concept render: BIGSTAFF
EDIT・TEXT
Sanae Sato