vol.03
Project: NOT A HOTEL RUSUTSU
北海道・ルスツを舞台に、ノルウェーを本拠地とする<Snohetta>が手がけるヴィラが誕生する「NOT A HOTEL RUSUTSU」。本プロジェクトは、北海道を代表するオールシーズンリゾート施設<ルスツリゾート>の新たな挑戦でもある。代々リゾートを経営してきた加森観光の代表・加森久丈氏はその目的を「我々が運営するリゾートだけでなくルスツという土地、さらには地域全体の価値を上げること」と表現する。
「1981年、私の父が現在の『ルスツリゾート』の前身である『ルスツ高原』という施設をオープンしました。当時登別温泉で運営していた「登別クマ牧場」で得た夏のシーズンの収益を冬期効果的に運用するべく初めたスキー事業でしたが、交通量の多い札幌と函館を結ぶ国道230号線沿いに隣接しているという好立地であったため、どうやったら年間を通してもっとたくさんの人に来て頂けるか夏場の観光を活性化する事を考えた結果、当時の北海道にはなかった大型遊園地が計画されました。北海道で初めてジェットコースターを導入したのは、実は『ルスツリゾート』なんです。こうして、北海道初となるオールシーズンリゾートとしての歴史が始まりました」 北海道でも人気のリゾートとして発展してきた「ルスツリゾート」。加森氏にとって、この土地は特別な意味を持つ。 「私は、この家業の三代目としてルスツに深い思い入れを持っています。幼少期の大半をここで過ごし、数えきれないほどの思い出が詰まったこの場所は、私にとって特別な存在です。その経験が、自分という人間を形作るうえで大きな影響を与えたことは間違いありません。振り返れば、私の成長はルスツの発展とともにありました。だからこそ、現在こうしてルスツを運営する会社の一員として関われることに、大きな喜びと使命感、そして責任の重さを感じています。この地のさらなる発展と未来のために、日々の仕事に全力で取り組んでいます」
ルスツリゾートは2024年、世界のスキー観光業界において最も名誉ある賞の一つとされる「World Ski Awards」で「Japan’s Best Ski Resort 2024」を受賞。世界各地から良質なパウダースノーを求めて多くの人々が訪れ、日々賑わいを見せている。 「今回で5度目の受賞となり、日本で最多受賞のスキーリゾートとなりました。さらに、『Japan’s Best Ski Hotel』などを含め、ルスツリゾート全体で合計9つの賞を獲得し、日本国内で最多の受賞歴を誇ります。この評価を受け、『ルスツリゾート』は名実ともに日本を代表するスキーリゾートであることを自負しています」 また、2020年には新たな宿泊スタイルを提案するコンドミニアム「The Vale Rusutsu」を開業し、これまでとは異なる滞在体験を提供することで、さらなる魅力の創出に取り組んでいる。しかし、新しい挑戦を続ける一方で、心に刻んでいることがある。 「今日のルスツリゾートがあるのは、祖父や父をはじめ、そしてこれまで関わってくださった多くの方々のおかげです。先人たちが築き上げてきた良き伝統や価値は、私たちの軸として守り続けなければなりません。もちろん、時代に合わせて改善すべき点は変えていく必要がありますが、私はこの長い歴史の一部として、大切に受け継ぐべきものをしっかりと守りながら、チームの一員として未来へとつなげていきたいと考えています。私の役割は、これまで積み上げられてきた石垣の一つの石に過ぎません。しかし、その一つひとつが確かなものであることが、ルスツリゾートの未来を築く礎になるのです。」 受け継がれてきた歴史と想いを原動力に、加森氏はルスツリゾートを単なる観光地にとどまらず、地域活性化のためのプラットフォームとして発展させることを目指してきた。 「リゾート開発の枠を超え、企業や地域住民、投資家が一体となり、新たな価値を生み出しながら持続可能な成長を実現することこそ、最も重要な使命だと思います。地域社会に真の利益をもたらし、長く愛される持続可能なモデルを築くこと。それが私たちの信念であり、ルスツリゾートが目指す未来の姿です」 役割や立場を超えた協業がもたらす価値。ルスツ全体にもムーブメントが生まれ始めている。 「ルスツには、すでに素晴らしい活気が生まれています。共に働く従業員の皆さんをはじめ、留寿都村の行政の方々、そして外部企業の皆さんとともに、誰もが自分の役割や居場所を見つけられる、良いコミュニティが形成されつつあると感じています。 日本と北海道が世界中から観光地として注目を集めるなか、ルスツはまだまだ可能性に満ちた白いキャンバスのような存在です。今あるテクノロジーや知識を活用し、日本が持つ本来の魅力をどのように際立たせ、世界へ発信していくか。その工夫次第で、世界の名だたるリゾートを超えるような、新たな価値を生み出せるのではないか・・・そんなワクワク感に満ちた場所でもあります」
ルスツという土地に根差した、さまざまな挑戦。その中で「NOT A HOTEL RUSUTSU」プロジェクトにこそ寄せる期待がある。 「スノヘッタがデザインする「NOT A HOTEL RUSUTSU」が計画されている山頂は、間違いなくルスツリゾートが持っている最も良い敷地です。遮るものがない羊蹄山のビューや、究極のスキーインアウトを実現するロケーションと雪質はもちろん、広大な平地の先に洞爺湖や函館まで見渡せる体験は素晴らしいものがあります。そんな絶景を一望できる、たった1軒の家。本当にすごいことだと思います。そして何より、この建築の完成をきっかけにルスツというエリアに注目する方がさらに増えるのではないかと」 「私たちがルスツで目指しているのは、単なるリゾート開発ではありません。『ここで過ごしたい、ここに住みたい』と心から思ってもらえるような、質の高いまちづくりです。だからこそ、短期的な利益を追うのではなく、地域全体の価値を高めることを最優先に考えています。今回のプロジェクトも、その価値を生み出すきっかけのひとつとして捉えています。水面に小石を落とすと、波紋が静かに広がっていく。そして、その波紋が風に乗れば、やがて大きな波へと変わっていく。私たちの取り組みがその第一歩となり、ルスツリゾートだけでなく、北海道の枠を超え日本全体にとっても大きな変化のきっかけになることを願っています。」
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NOT A HOTEL
Yuka Ito(Newcolor inc.)