vol.02
Project: NOT A HOTEL SETOUCHI
広島県三原市の離島・佐木島で建設が進む「NOT A HOTEL SETOUCHI」。今日の建築業界を代表するアーキテクト、ビャルケ・インゲルス率いる<BIG>が島の半島部分にヴィラをデザインする。岡田吉弘三原市長が直々にNOT A HOTELを誘致したことが、プロジェクトが始動するきっかけとなった。
広島県三原市長を務める岡田吉弘氏。2020年8月の就任以来、自身の出身地でもある三原市のまちづくりに全力を注いできた人物だ。 「ある時、NOT A HOTELが瀬戸内海エリアでホテル事業展開を検討していることを知りました。それを知って1週間以内に濱渦社長の自宅に伺い、広島県三原市に佐木島という素晴らしい島があるということをご紹介したんです。動画や写真をお見せしたところ、興味を持っていただいて。1ヶ月後には、実際に佐木島へ視察に来ていただき、プロジェクトがスタートすることになりました。日頃から、佐木島は訪れていただいた方が魅力を感じて、好きになっていただける場所だと思っていました。そうした土地でこのようなプロジェクトが進んでいることは本当に嬉しいことです」 こうして、岡田市長のスピード感に溢れる働きかけを契機に、大型プロジェクトがスタートすることになった。舞台となる佐木島は三原市の南に位置しており、穏やかな瀬戸内海に囲まれた離島。周囲12kmほどの島に約600人が暮らしており、野菜や柑橘栽培が盛んだ。 「瀬戸内海ならではの多島美を楽しめる、素晴らしい場所です。春の桜の時期には『塔ノ峰の千本桜』と呼ばれる圧巻の風景が広がります。そして何より島民の皆さんが佐木島のことが大好きで、この島を盛り上げたいと、いろいろな活動をしてくださっています。サイクリングで知られるしまなみ海道がすぐ隣に通っていますが、佐木島は橋が架かっていない分、周辺の島々とは少し異なる、ちょっと独立したような場所。だからこそ、手つかずの自然がたくさん残っていて、雰囲気もやはりすごく穏やかですし、離島としての魅力がすごく際立った場所だというふうに感じています」
建築を手がけるのはビャルケ・インゲルス率いる<BIG>。世界が最も注目する建築家のひとりで、世界各地でプロジェクトを手がける。ビャルケは、佐木島の風景をこう表現した。「瀬戸内海に浮かぶ群島は、まるで日本の伝統的な風景画のよう。豊かな緑に覆われた起伏のある島々のシルエットが海から現れる様子は、なんともドラマチックです。『NOT A HOTEL SETOUCHI』ができる佐木島の敷地も、それ自体が瀬戸内の景観の小宇宙のようなもので、起伏に富み、入り組んだ地形によって、遠くの眺めと目の前に広がる景色の関係性も見事です」。 <BIG>チームは佐木島の南西部、半島の先端に位置する3万平米を超える敷地を実際に歩き、プランを検討。土地や自然への介入を必要最低限に留めるため、既存の道路や地形に沿ったデザインとして、「360」、「270」、「180」という、角度をモチーフにしたユニークな建築プランを導き出した。2025年7月現在、建設は順調に進んでおり、2026年の開業を目指している。完成すれば日本初となる<BIG>建築に、岡田市長が期待することとは。 「世界で最も有名な建築家であるビャルケ・インゲルスさんに設計を手掛けていただいたことに、本当にワクワクしています。 先ほども申し上げた通り、佐木島は人々を感動させる力のある土地だと思っています。そこに、ビャルケ・インゲルスさんの建築が合わさってくることで、これは本当に世界でも唯一の素晴らしい場所になるぞという、そんな確信を持っています」
三原市で生まれ育った岡田市長は、高校時代までをこの土地で過ごした。海沿いの風景は通学時にいつも眺めていた思い出の光景だという。彼自身、人一倍「三原をよくしたい」という思いで市政に取り組んできた。 「高校生まで三原で過ごし、大学進学と同時に広島県外に出て、約14年間を県外で暮らしていました。ただ、やっぱり三原が好きでUターンで戻り、地元の活性化に貢献したいと思ってさまざまな活動に取り組んできました。県外に出て三原を見つめ直したことで、食文化や景色、暮らしている方々の人柄など、多彩な魅力を実感しました。そんな三原の活性化にしっかりと力を尽くしたいと思い、今は市長としてやりがいと責任感を感じながら仕事をさせてもらっています」 2024年に再選を果たし、現在は2期目。三原市の未来を見据えて、日々の活動に邁進している。 「三原市は歴史を遡れば、小早川隆景公という戦国武将が築いた城下町なんです。時代が進み、大企業が工場を建て、企業城下町として発展してきました。しかし、産業構造が変化し、企業や工場が撤退していく中で、今では人口が減少し、町もどこか元気のないところも出てきている。そうした状況にあって、「NOT A HOTEL SETOUCHI」のプロジェクトを通して、世界的に著名な建築家が佐木島に素晴らしい施設を作っていただけることで、三原市や佐木島にも新しい魅力が作られていくはずだと考えています。より多くの方に訪れていただき、楽しんでいただいて、この場所を世界に発信していけるようにしていきたいと思っています」
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PHOTO
NOT A HOTEL
Kanta Nakamura(Newcolor inc.), Maya Matsuura