Vol.02
BIGの理想を詰め込んだ、 実験的な新社屋
NEW BIG's HQ
2023年の秋、コペンハーゲンの埠頭の先端に完成したBIGの新本社ビル。建築デザインのみならず、プロダクトからランドスケープまで、すべてを自社で手がけた初の事例だというこの建物には、ドアのハンドルからエネルギー効率まで、すべてにおいてBIGの理想が詰まっている。
CONTENTS
コペンハーゲンの港に佇む建築
2年の建設期間を経て、コペンハーゲンの港湾地区ノーハウンに昨年完成したBIGの新たなヘッドクォーター。コンクリートとガラスをほぼ半分ずつ使用した7階建ての建物内部には、鉄の階段がジグザグに走り各フロアを繋いでいる。仕切りがなくオープンな構成で、花崗岩や大理石など、8種類の異なる石材からなる1本の石柱が、空間の中心を貫く。 「例えばプロダクトデザインも、私たちの建築の延長線上にあります。既製品から選ぶのではなく、細部まで自社で完結することで、自分たちの理想を追求することができるのです」とビャルケ・インゲルスが言うように、ここではドアのハンドルから照明、家具にもBIGがデザインしたものを多く採用。プロダクトのみならず、自分たちの意図したものを狂いなく実現するために、BIGはランドスケープ、エンジニアリング、建築、プランニング&プロダクトデザインの各分野の頭文字をとって「BIG LEAP」と呼ばれる多彩なチームを社内に抱え、建築に関わるすべてを自社で完結することを目指す。
”ひとつの空間”を作り出す階層デザイン
桟橋の端にある小さな敷地であったことから、本社としての十分なスペースを確保するためには、最低でも4つの階層に分けなければならない点が設計上の課題になった。前社屋は市内の南側に位置する元ビール工場でワンフロアの大空間だったが、新社屋でもスタッフ全員がひとつの空間にいると感じられる環境をどう構成するか。検討の結果、すべてのフロアを半分にして階層を2倍に増やし、大きな吹き抜けが各フロアを繋ぐデザインが生まれた。 また、再生可能エネルギーへの依存度を下げるため、太陽光と地熱エネルギーシステムを取り入れたという。コンクリートはBIGとユニコンが共同開発した、CO2を約25%削減する新しいタイプのコンクリート「ユニグリーン」を使用。サステナビリティにも徹底的にこだわっている。 海に囲まれた建物にはあらゆる角度から光が入り、どこにいても太陽の動きが感じられる。太陽の光や熱を効率よく取り入れ、屋内にいても自然と繋がる感覚を味わうことができるほか、桟橋の先端部分は、ランドスケープチームがかつての駐車場を、市民に開かれた公園にリノベーション。北側には松やオークなどの樹木を植えて風よけとし、南側には植栽や岩を配して昆虫や生物多様性の生息地づくりをサポートする。
世界8都市に広がるBIGのオフィス
コペハーゲンオフィスが設立されたのは2005年。今やBIGの拠点は世界8都市に広がる。2010年にはニューヨークでのプロジェクトをきっかけにニューヨークオフィスが誕生、続いて若かりし頃ビャルケが留学していた思い入れのある街、バルセロナオフィスがオープンした。ロサンゼルスやロンドン、オスロ、チューリッヒ、深圳のオフィスは、それぞれ現地プロジェクトのためのオフィスとして作られた一時的なものだったが、そのまま有機的に大きくなっていったという。 それぞれのオフィスの担当エリアは、コペンハーゲンは主にヨーロッパ、ニューヨークが南北アメリカ、バルセロナが南ヨーロッパ、ロンドンには中東企業の本社が多いことから中東など、大まかな設定はあるものの、今回の「NOT A HOTEL SETOUCHI」が時差がいちばん少ない深圳ではなく、小池氏がいるロンドンになったように、厳密なルールがあるわけではない。
STAFF
EDIT・TEXT
PHOTO
Sanae Sato
Laurian Ghinitoiu, Maya Matsuura